先日公開した「2019年の印象的な28枚」のトップに選んだエベレスト街道のヤク写真。この1枚を選ぶまでの撮影経緯や試行錯誤、最終的にセレクトした理由などについてまとめてみました。
日頃、私がどんなことを考えながらフィールドで写真を撮って、最終的にブログに掲載する写真を絞っているのか、そんな過程の1つをお見せできればと思います(そんな大層なものではない)。
明確なイメージ・手法が常にある訳ではない……
そもそも私の場合は写真を作品として撮っている訳ではありません。あくまで体験の「記録写真」ではありますが、その中で最高の瞬間に出会ったらベストな状態で写真に落とし込みたい ……ということは常に意識しています。
そのようにして撮った写真の中から作品に昇華できるものがあるかは、あくまで私の思い入れや腕前次第な訳ですが、ふんわりと思い描いた理想を写真として残せているかは、まだまだ怪しいところ。
常に今回紹介するような流れで写真を撮っている訳ではありませんが、このときに私の取ったアプローチのひとつとして楽しんで貰えたならば幸いです。
ヒマラヤと氷河をバックにしたヤクの写真を撮りたい!
エベレスト街道最後の村であるゴラクシェプに到着した日。アタックザックに簡単な荷物のみを詰めて、エベレスト登山のベースキャンプ(EBC)に向かっていた際、ラスト数キロの氷河沿いを歩いていると何度かEBC方面から戻ってくるヤクの群れ(正確には荷運びのポーター/ヤク飼いが引き連れたヤクたち)とすれ違うシーンがありました。
基本的にエベレスト街道の登山道はトレッカーよりも現地のポーターやロバ・ヤク優先なので(彼らは仕事だし、そもそも避けるという概念もない)、大きなヤクが歩いてきたらトレッカーは道の横に避けてやり過ごすことになります。当然、そんな絶好のタイミングでは写真を撮りたくなりますよね?
そうしてヤクたちとすれ違いが発生する度に写真を撮るようになる私。
ヤクたちが歩いてくるその向こうにはエベレストを擁する(エベレストはここから見えないけども)ヒマラヤの雄大な峰々。間にはエベレストベースキャンプやクンブー氷河のアイスフォール帯が広がっています。これはなんとかしてカッコいい1枚を撮りたくなるシチュエーションです。
ヤクとヒマラヤアングル試行錯誤
では、実際に撮った写真の中から時系列に抜粋して見ていきましょう。
このエリアで撮ったヤク写真の最初の1枚がこれ。坂道を登って顔を見せた瞬間のヤクちゃん。これはこれで悪くないけどイマイチ背景のシチュエーションが伝わりませんよね。
即座にズームリングが回して引きながらパシャパシャと手動連写。バックにヌプツェ(標高7,827m)やアイスフォールが入って少しいい感じになりました。でもちょっと写真としては弱いかな……?(周りのロケーションが凄すぎて感覚が贅沢になっている)
お、このアングルで待つといいかも?……と気付く。
ということで、このアングルでの個人的なベストショット。雲が沸き立つヌプツェをバックに迫るヤクちゃん。茶色い毛の子と地面の岩や土の色が被って、保護色っぽくなってしまったのがちょっと微妙かな?
ヤクは次々にやってくるのでチャンスは何度も訪れますが、前の子が写り込んでしまうとボツカット。
基本的にパンフォーカス、シャッター速度速め
露出モードは「絞り優先」。被写体は動くヤクが対象なのでF4.0〜F8.0あたりで適宜調整しながら、シャッター速度が1/1000秒よりも早くなるように。標高5000m台の光量たっぷりなので露出オーバにならないよう露出補正をしながら撮ります。マイクロフォーサーズの場合は焦点距離にもよりますが広角寄りならばF5.6程度でパンフォーカスで撮ることができるので、あまり被写界深度については深く考えずヤクから背景の山までパンフォーカスになっていること程度を意識しました。
このターンは避けた場所が登山道を見下ろす場所になってしまいました。
このターンは……
手前に岩が…… またしてもポジショニングに失敗してしまったか。
徐々に撮りたい写真のイメージが見えてきた?
そしてこの頃から水平〜ローアングル気味に少しヤクを見上げつつ、かつ広角で風景を押さえつつヤクや接写気味で撮るのがいいのでは?とイメージができたような気がします。
そしてこの一団がやってきた。比較的開けたポイントでのすれ違いで背景もバッチリ。フィッシュアイレンズ(M. 8mm F1.8 Fisheye PRO)を付けたカメラで、超広角7mm(14mm相当)のリアルタイムFisheye補正をしながら撮影スタート。
おー、カッコいい角のヤクちゃんが来ました! この子は先頭だったのね。
そしてこのターンでの3枚目がこの写真。近づいてくるヤクに対してシャッターを切りながら3枚目のタイミングで、ヤクの顔が構図の周辺部に、超広角の歪みがピークになる位置に来た写真が撮れました!
結構大きな行列だったので、その後もイイ感じのタイミングで何枚か撮れました。
これも結構気に入ってるやつ。アッシュ系の毛色のヤクちゃんで、後続のヤクたちが綺麗に写っているのはこの写真かも。
あまりにセンターだと悪くはないけど、やっぱり迫力に欠けてしまうかな……?
このターンはそこそこ手応えを感じたので、途中で高倍率のズームレンズ(M.12-100mmPRO)を付けたカメラに持ち替え。1つ前の写真の3頭目に映ってるヤクに間に合いました。画角は12mm(24mm相当)。ヤクの大きさを見せるならこれも悪くないかな……。
その後も何度か挑戦していて、このターンも結構好きだったりします。
これぐらいトリミングすると迫力が出て良い感じかな? ヤク飼いの人の青と赤のダウンがいいアクセントになってる気がする(ヤクと重ならないともっと良かった)。
逆方向も撮ってみたりとか……
といった感じで、この周辺で撮ったヤク行列写真は、現在データが残っているもので(明らかなピンボケ等は既に消してしまったかも)70枚近くありました。
何をベストとするかは人によるかもしれませんが、自分がセレクトの際にひと目見てピンと来たのは例の一団の先頭を歩く黒いヤクを写した1枚でした。
アイスフォール帯のいい部分はヤクの体で隠れてしまってますし、後続のヤクたちの並びもあまり綺麗ではないですが、先頭のヤクの顔の位置、ノートリでこの構図にハマってくれたことなど個人的にはこれが一番インパクトがあるかなと。
撮って出しのJPEGやFisheye補正を外したRAWデータ……
ちなみに完全に撮って出しのJPEGがこれ。Fisheye補正なのでJPEG保存されたデータですが、オリンパスのVIVIDで撮っていたものでほぼ私の理想の色に仕上がっています。
Lightroomで公開用に多少手を入れたものがこれ(確か身内のフォトコンに出すつもりで、最初ブログ記事には貼ってなかったかもしれません)。
その後、この写真を山のカメクラ仲間の集まりで見せた際に「ヤクの顔(目)が見えたらよくなるかも……」とアドバイスを受けて、修正を入れたのが先日公開したこのバージョン。JPEGなのでデーター的にはほぼ黒潰れしていてあまり階調は戻りませんでしたが、気持ち程度でもと。
ちなみに今回はオリンパスのJPEG(VIVID)を尊重した仕上げを行ってますが、ここ最近私がよく使っている自分用のプリセット(前回の天狗岳の記事でも多様してます)を使うと、今はこんな感じで仕上げることもあるかも?
少し渋め(?)になって、これはこれで悪くない気がしますがいかがでしょう?
あと、Fisheye補正されていないRAWデータは残っているので、オリンパスの純正現像アプリ「Olympus Workspace」で再現像&Fisheye補正を行えばヤクの顔(目)の階調ももっと綺麗に戻せるかもしれませんが、まだ試していません。
そんなRAW画像(魚眼写真)をそのまま書き出したのがこれ。これはこれで面白いけど迫力に欠けるんですよね。ネタバレのようで、できれば見せたくなかったかも(笑)
今回は現地での試行錯誤(乱れ打ち?)がメインで、現像過程で作り込むような要素は殆どありませんでしたが、撮って出しで「最高!」と自分が思える写真が撮れるのは、カメラや写真を趣味にしていて、かなり気持ちのいい瞬間かもしれません。
ちょっと後悔してるのは現地で適当にセレクトしてツイートをした際に、うっかりこの写真を出してしまったこと……。まさか一番いいやつだったとは(苦笑)
ずっとiPhone写真をアップしてますが、丁度超広角用のカメラのバックアップカード入れ替えのタイミングなので雑セレクトですが……
— OKP (@iamadog_okp) 2019年4月4日
帰国してから見るのが楽しみ(何千枚あるのだろう……) pic.twitter.com/WllSujsDfC
同じようなカットは沢山撮っているからとパッと目に付いた写真を選んでしまいましたが、よく見て出し惜しみしておくのでした。お気に入りの写真は雑セレクトでも結局選んでしまうのですね。
以上が、ベストショットのヤクちゃん写真に行き着いた過程の全てです。
その他にも皆さんなりの写真の追い込み方、現地の構図や露出のアプローチ、家に帰ってからのセレクト基準、現像での作り込みなどをブログ等で見せて貰えたらとても嬉しいです。