世田谷文学館で開催中の谷口ジロー展を見てきました。
谷口ジロー氏の作品は『孤独のグルメ』を入り口に、『神々の山嶺』『K』『犬を飼う』『歩くひと』など、代表作の一部を読んでいるだけでしたが、どれも好きな作品ですし、ツイッターでこの展覧会が開催されていることを知ってから見に行くタイミングを狙ってました。
京王線芦花公園駅から世田谷文学館へ
新宿のオリンパスプラザに行き、2つの写真展を見て、つつじヶ丘でラーメンを食べてコーヒー豆を買った日の続き。京王線の各駅停車に乗って、つつじヶ丘から3駅隣の芦花公園に移動しました。各駅停車しか止まらない駅なので下りたのは初めてです(京王線快速と各駅の違い、調布〜笹塚間の停車駅なんですね)。
駅前には小さなロータリー、サミットがあって、落ち着いていて住みやすそうな街だなあ…… と少し歩くとすぐ高級住宅地の雰囲気に。そうでしたここは世田谷区。住みやすそうなのも当然だし、住める街ではなかった。
京王線と交差する駅前の千歳通りを5分ほど歩くと、低層マンションが並ぶ閑静な住宅地の一角にガラス貼りのオシャレな建物が見えてきました。
「谷口ジロー展」会場となっている世田谷文化館です。休館日は毎週月曜、開館時間は朝10時から18時まで。
世田谷文学館|描くひと 谷口ジロー展
『描くひと 谷口ジロー展』世田谷文学館
国内外に多くのファンを持ち、2017年にこの世を去った漫画家・谷口ジロー氏。氏の直筆原画を中心に約300点が展示された展覧会。この会場では今年10月16日から開催されていて、会期は来年の2月27日(日)までと、結構な長丁場になっています。
直前になって、SNSやはてなブックマークで話題になっているのを見て、急に混み合ったりしないかややドキドキしましたが、平日の午後ということもあって杞憂でした。
企画展チケットは一般900円。そのまま栞に使えそうな紙質の半券が手元に残ります。
1階ビデオコーナーの横で井之頭五郎と記念撮影ができる。展示は2階展示室の全てを使っています。
この手の展覧会にしては珍しく撮影がOK(動画撮影、フラッシュ撮影は禁止)。展示数が多いので写真を撮るにしてもキリがないのですが、会場が空いてたこともあって気になった展示作品を撮っていたらものすごい枚数になってしまいました……。
ブログでは展示順路の紹介程度にしておきますが、ぜひ実際に足を運んで自分の眼で見て貰いたい展示ばかりです。
入場口にはチケットにも使われていた『歩くひと』の巨大なカバーイラスト(もちろん原画の展示もあります)。この背景はアシスタントの方が、1週間近く掛けて描いた入魂の作品で、人と犬、着色は谷口氏によるもの。どんなに小さくても犬を描くことにはかなり拘りがあったそうです(単行本『描くひと』より)。
ハードボイルドから山岳、動物、グルメ、歴史、人間模様、さらにSFまで幅広い作品を手掛けた谷口ジロー氏。
原画の展示ではない代表作からの抜粋ですが、つい読んでしまいますね。
「1 漫画家への道のり」
「2 70年〜80年代:共作者・原作者とともに時代の空気を描く」
初期は青年コミックでのハードボイルドものを描いていた谷口氏。後の作品での劇画とも違う独特のリアル描写が印象的な谷口氏の漫画でしたが、かつてはこのような劇画も描かれていたのですね。
『事件屋稼業』めちゃ読んでみたくなった。
このベタの黒さは自分の知っていた谷口作品のイメージにはなかったもの。しかし凄い迫力。
「3 80年代:動物・自然をモチーフに広がる表現」
このようなSF作品も書いていたんですね。単行本『描くひと』に収録されたアシスタントインタビューでの大友克洋氏をずっとライバル視していたという話、一方の大友氏のインタビューでは「谷口さんに対するライバル心はなかった」といった話が双方から出ているのがおもしろい。
『K』だ!
「ひと目見て海外か日本の山か分かるように、山の違いを描けるようにならないといけない」と語った谷口氏の話を聞いた大友克洋氏、「マジすか」と2度繰り返したというエピソード(これも『描くひと』より)。
「4 90年代:多彩な作品、これまでにない漫画に挑む」
「『坊っちゃん』の時代」の展示にはかなりのスペースを使っています。これも読んでみたい。
『歩くひと』の「よしずを買って」。台詞もないのに音が聞こえてくるような絵です。
みんな大好き『孤独のグルメ』。
うおォン。
『犬を飼う』は泣いた。犬との別れを想像すると悲しくなる。
「5 2000年代:高まる評価、深化する表現」
メジャーな代表作として『孤独のグルメ』と並ぶ『神々の山嶺』。自分は先に夢枕獏氏の原作を読んだ後で漫画版を読んだのですが、作品世界の再現度の高さに驚きました(自分の想像と谷口氏の絵がかなり近かった)。
その後、実際にネパールのカトマンズの街やエベレスト街道を歩いた際、漫画で描かれた絵が現地そのままであることを知ることとなりました。実際に谷口氏もネパールに行き、カトマンズでの取材と遊覧飛行機からエベレスト周辺を見たそうです(単行本『描くひと』より)。
「6 2010年〜:自由な眼、巧みな手。さらに新しい一歩を」
「コラム 食」
「コラム 動物」
OKP。書き込みやばい。
ネームと完成原稿(複写)。
「谷口ジローの凄いところは、これだけ優れた描き手であるのに、その死後、いまだにその追従者があらわれないということだ。模倣者すらあらわれない。だから、谷口ジローの座っていた椅子は、そのまんま、空いたままだ。それでいい。」も夢枕獏節全開でカッコいいのですが……
それと合わせて、単行本『描くひと』での池上遼一氏による、「谷口さんのやってきた仕事を直接引き継いだわけではないと思いますが、若い作家の中に文学性の高い漫画を描く人が登場してきましたよね(中略)その流れを若い作家たちが引き継いできているような気がして。谷口さんの作家としての姿勢を踏襲しながら、今風に現代の世界を描いている」という言葉も一方でグッと来るものがありました。
「世界で認められる谷口作品 海外とのコラボレーション」
水彩画のカラーイラストも素晴らしい。やはり単行本『描くひと』にありましたが、谷口氏の漫画はあまりパースのキツい絵を好まなかったそう。大友克洋氏もインタビューで「50mmの標準レンズでものをありのままに撮っている感じ」とコメントしていました。確かに広い範囲を描いていても、標準や中望遠で遠くから切り抜いているようなパースです。
「エピローグ 最後まで「描く人」として」
再入場はできないので(ガラガラなら多少順路を戻っても大丈夫ですが)人が増える休日などは注意。
ミュージアムショップでの谷口ジロー関連作品販売もかなり充実していました。
力の入った装丁の『谷口ジロー コレクション』はかなり気になったのですが、今はなるべく自宅に紙の書籍を増やしたくないこともあり電子でも読めるものは極力我慢することに。
今回は展覧会のタイトルと同じ単行本『描くひと 谷口ジロー』を購入。帰宅後に読んでいますが(本記事でも早速引用してますが……)、一通り読んでから改めて展示を見ると何も知らずに見た初回よりも解像度が深まって楽しめそうです。会期もあと数ヶ月あることですし、せっかくの京王線沿線なので行くかな。
今回、平日に1人で見てしまいましたが、早速週末には妻も足を運んでいました。そこそこに賑わっていたそうですが、混雑という程もなかったそうなので、ご興味のある方は機会がありましたらぜひ。
『歩くひと 完全版』もB5版の装丁でかなり欲しくなったのですが、やはり置き場所が…… と一旦我慢。でも、次回行ったら結局買ってしまいうかも。