2014年9月27日、11時52分に発生した木曽 御嶽山の噴火からもうすぐ10年を迎えます。
当時の自分はまだ登山を初めたばかりの頃で、丁度土曜出勤をしていた日の午後、職場で流れているラジオで噴火の一報を聞いたことを覚えています。紅葉シーズンが始まった人気の高山、晴れの週末、ロープウェイを経由して手軽に登れる山のお昼どきがどんな状況だったのか当時の自分にはあまりピンと来ていませんでしたが、今では容易に想像ができます。そのようなタイミングで発生したのが、死者58名、行方不明者5名という多大な犠牲者を出した御嶽山の噴火でした。
私は2018年に剣ヶ峰までの入山規制が緩和された際、御嶽山を訪れたのですが、その際のブログ記事を見て連絡をくれたのが本書の筆者で山岳ガイドの小川さゆりさんでした。噴火の当日、ガイド登山の下見として御嶽山を訪れ、剣ヶ峰山頂を通り過ぎてお鉢付近で噴火に遭遇した小川さんは、周囲を闇に飲み込んだ噴煙と火砕流、そして無数に降り注ぐ噴石の中を生き抜いて自力で下山を果たした生還者のひとり。
その後、小川さんはその体験を手記としてまとめ、『御嶽山噴火 生還者の証言 あれから2年、伝え繋ぐ共生への試み』(山と溪谷社)として発表しています。
小川さんは2018年の規制解除時にも実際に現地を訪れたそうですが、ご自身の講演会で私のブログに掲載されている写真を使いたいと連絡を頂きました。小川さんの著書は既に読んでいたこともあり、そのような理由であればと快諾しました。噴火から10年となる今年、小川さんの書籍が加筆された上で文庫化。増補部分となる2018年の規制解除の参考写真として、私の撮った写真を使っていただけることとなりました。そのような縁もあって山と溪谷社より見本誌を送っていただきました。
今回改めて再読。本書の前半では噴火の直後、いかに山頂付近が壮絶な状況だったか、実際に体験した人間にしか語れない言葉として克明に記録されています。登山経験も豊富で、職業ガイドをとして一般的な登山者よりも危機意識は高かったと思われる小川さんですら想定していなかったという御嶽山の噴火。現場で小川さんの取った行動を読みながら、実際に自分だったらどれだけのことができただろうか?と改めて何度も考えました。
本書で小川さんが繰り返すのは、登山者個人が危機意識を持つことの重要さ。情報や装備、自治体等による防災対策の重要さも認めつつ、それを適切に活かせるは登山者側の危機意識があってこそである、そのように小川さんは強く訴えているように感じました。改めて、このような体験を貴重な手記として残してくれたことに感謝します。
本書より一部が版元のオウンドメディアにて公開されているようです。
御嶽山噴火についての書籍はこの他にも他社を含めいくつか出版されていますが、小川さんの本の他に私が読んでいるのは、噴火からまだ2ヶ月教というタイミングで発表された『ドキュメント御嶽山大噴火』(山と溪谷社)。当時の報道をもとにした時系列での状況説明、実際に山頂周辺で噴火を間近に体験した人々の証言(ここには小川さんの証言も含まれています)、専門家による噴火の科学的考察、そして救助に携わった方々による報告という構成。個人による生々しい手記も非常に貴重ですが、その日この山域で何が起こっていたのか、その後の経緯までを俯瞰的に知るにはこのような書籍を手にとってみるのも良いでしょう。