うかつに「登山でユニクロのヒートテック使ってます!」なんて書こうものなら、あちこちからお叱りを受けてしまいそうなこの案件。地雷を踏まぬよう注意深く進めていきましょう…(苦笑)
最近もとあるアウトドア系キュレーションメディアが批判を受けて、記事を削除するといったことがありましたっけ…。
[B! 登山] 【YAMA HACK】日本最大級の登山マガジン - ヤマハック
そんな登山(スポーツ)用途のヒートテック使用に警鐘を鳴らしたのは、恐らくこちらの記事が最も有名かと思います。ヒートテックが登山に向かない旨のソースとして貼られることも多いですね。はてブ数も4桁とすごく読まれてる!
ヒートテックを山岳ガイドが使わない理由 | IT技術者ロードバイク
確かに昔のヒートテックは少し汗をかいてしまうと、乾きが遅く汗冷えしやすい印象でした。しかし、現在売られているヒートテックでも同じなのでしょうか?
- ユニクロが公式に登山着としてのヒートテック着用を宣伝してるけど…
- もしかして、ヒートテックの速乾性能は、上がってる?
- 2016-2017シーズン版のヒートテックで速乾テストをしてみよう!
- 速乾性能(乾燥スピード)テストの手順について/注意
- 肌着の保水&乾燥テスト結果
- テスト結果より
- おまけ:ユニクロ製「ファインメリノウール」もテストしてみた
- 参考記事など
ユニクロが公式に登山着としてのヒートテック着用を宣伝してるけど…
最近ですと、昨年セブンサミットを達成した女性冒険家の南谷真鈴氏が、エベレスト登山にてヒートテックを着用したことを、ユニクロ公式が大々的に宣伝している位です。
実際の所はユニクロと並んで南谷氏をスポンサードする、ミレーの「ドライナミックメッシュ」を、ドライレイヤーとして着用していた大人の事情もある訳ですが、あくまでそれはFacebook等で一部に向けて伝えられた情報です。
Facebook
この冬はユニクロの店舗に行っても、南谷氏を広告塔にしたエベレスト登頂おけるヒートテック着用を大々的にアピールしています。当然ですが「ベースレイヤーの下にドライレイヤーを着ましょう」といった言及はありません。
もしかして、ヒートテックの速乾性能は、上がってる?
登山におけるウェアの選択は一歩間違えると命にも関わること。それをグローバル企業であるユニクロが大々的に煽っている訳ですし「もしかしたらヒートテックの吸汗速乾って以前より進化してるのでは?」と考えるようになりました。
ユニクロの店頭ポップでも「今年のヒートテックはドライ機能がアップしました」との記述。やっぱり速乾性能はアップデートさせてるみたいです!?
先の警鐘記事にしても、元々は2013年に書かれたもの。3年以上経った現在、ヒートテックのアウトドアウェアとしての性能は、実は進化してるのではないか?と考え、今回簡易的ではありますが速乾性能(のみ)に注目したテストを行ってみました。
2016-2017シーズン版のヒートテックで速乾テストをしてみよう!
買ってきたのは、現在売られている2016-2017シーズンの最新ヒートテック。冬期の下着としては最もオーソドックスな長袖タイプ(Vネック 九分袖)です。素材の割合は「レーヨン34%/ポリエステル33%/アクリル28%/ポリウレタン5%」と、ネットで見られる過去のヒートテック情報とほぼ同様です(ブ厚かった頃の初期ヒートテックは全く別)。
一般的にはこの「レーヨン」が速乾におけるネックとされていますが、ここはヒートテックが発熱素材である以上譲れないところなのでしょうか。とりあえず実際に試してみないことにはね!
やはりパッケージ裏では「吸放湿」と「吸汗速乾」を打ち出しています。
ちなみに現行ヒートテックには「ヒートテック」「極暖ヒートテック」「超極暖ヒートテック」の3種類がありますが(後者ほど生地が厚く暖かい)、「吸汗速乾」を打ち出しているのは薄手の「ヒートテック」肌着のみなのでお間違いなく。
ユニクロ公式 | ヒートテック(メンズ) (men) | ユニクロ
比較対象は2年前のヒートテック/無印コットン/モンベルジオライン
本当は4〜5年以上前のヒートテックが手元にあれば良かったのですが、その頃のヒートテックは全て処分済み。手元にある一番古いヒートテックシャツは、一昨年に型落ちとして購入した、つまり2014-2015シーズンのモデルです。最新ヒートテックの速乾性能が進化しているなら、なんらかの違いが見られるかもしれません。
さらに速乾性能の低そうな同型の長袖下着として、無印良品の「コットンウールストレッチ あったか/Vネック長袖シャツ」を用意しました。綿100ではありませんが、「綿84%/ウール10%/ポリウレタン6%」と肌触りや保温性を重視した、速乾性は二の次の肌着だと思われます。
また、比較用のアウトドアウェアとして、この手の話題ではお馴染みの「モンベル/ジオラインM.W.(長袖)」を用意しました。こちらは素早い吸汗と速乾性を謳い、かつ保温力も確保した中厚手(ミドルウエイト)の機能性肌着です。
さらに長袖シャツではありませんが、登山用ベースレイヤーとしてこちらもお馴染みの「モンベル/スーパーメリノウール M.W.」もテストに加えました(長袖が手元になくタイツを使ったので、あくまで参考)。天然素材であるウールは発熱や保温性の高さが売りで、かつ濡れても汗冷えしにくいのが特性と言われています(速乾性能が高い訳ではありません)。
その他、ジオラインL.W.やファイントラックのドライメッシュなども使っていますが、用途が異なる肌着であるため(防寒を含まないベースレイヤー/ドライレイヤー)、今回のテストには加えていません。2製品の簡素な速乾比較は、以前こちらの記事で行っています。
快適な山歩きに欠かせない三種のアイテム「ドライレイヤー」「コンプレッションタイツ」「インソール」 - I AM A DOG
速乾性能(乾燥スピード)テストの手順について/注意
まず、最初に注意として今回のテストは実際のフィールド使用でなく、保水状態からの乾燥具合(含水率)の変化を、部屋干し時の重量変化で計測したものです。フィールドで肌着として着用し、ミッドレイヤーやハードシェル等を重ね着した場合は、全く別の結果になる可能性があります。
あくまで、速乾性能の一部を比較しただけのテストであること。また、1回きりの計測のため様々な誤差も発生していると思われる点に留意の上、ご覧くださいませ。
全てのウェアに同量の水分を含ませて乾燥させる方法なども検討しましたが、今回は一律で水を染みこませた状態から、洗濯機で5分脱水をした状態を「保水状態」としました。
そこから「室温22℃/湿度45%」の室内で部屋干し。10分毎にそれぞれの重量を計測しています。フィールドでの汗乾き(汗冷え)にどれほど直結するデータか分かりませんが、比較的面白い結果(?)が得られましたので、公開してみることにします。
※テストに際して新品のヒートテックと無印シャツは、1度洗濯を行っています。また、全てのテスト肌着に対して洗濯時に、(速乾性能に影響が出ると言われる)柔軟剤は使用していません。
肌着の保水&乾燥テスト結果
まずは、実測の重量変化を表にしたものです(単位はグラム)。「乾燥時」の重量に、前項条件の「保水時」重量。以後は10分おきの重量変化になります。
※部屋に置いているだけでも、乾燥時の衣類は湿度等で2g前後の重量変化は頻繁に起きるようでした。あくまでそのレベルの誤差は発生しているとお考えください。
「含水率」は湿量基準含水率にて
そして気になる含水率の変化を折れ線グラフで。ちなみにグラフを作るにあたり保水率(「含水率」と呼ぶそうです)の算出方法を調べたのですが、この「含水率」には水を含まない重量を基準にした「乾量基準含水率(全乾法)」と、全体重量を基準にする「湿量基準含水率」があるそうです。どちらを用いるべきかですが、あくまで素材毎の含水率の変化が比較できればよいので、後者の数値を出しています。
まず、目を見張るのがジオラインの圧倒的な速乾性能の高さ。スタート時点での保水が少ないことにも注目ですが、乾き初めてからの急下降ぶりが、その速乾性能の高さを示しています。実際に着用した場合、含水率20%を切っている時点で、ほぼ汗冷えなどは感じないと思われます。
続いて、今回の主役(?)であるヒートテック。困ったことに(?)最新の2016版よりも、2014版の方が乾きが早い結果が出てしまいました(笑)。測定誤差の範囲(スタート時点での脱水の誤差)とも考えられますが、今回1度きりの計測では最新版ヒートテックの速乾性能向上を裏付ける結果は得られせんでした。
天然素材であるスーパーメリノウールはやはり速乾テストでは分が悪かったか、ヒートテック2種とほぼ同じ(少し負ける)結果となっています。これはテストに使用したスーパーメリノウールがタイツであったため、ウエストゴム部分の吸水のが多かった可能性があることも付け加えておきます。
そして当初、最も含水率が多かった無印のコットン肌着。計測時の手触りもあきらかに、これだけが「濡れ」感が強かったです。しかし完全乾燥(含水率0%)になるのは、ヒートテックやメリノウールと10分しか変わらない結果でした(しかも1gの差)。アウトドアでは兎も角、洗濯物としての乾き具合は化繊インナーに負けない製品のようです(笑)
テスト結果より
様々な誤差もあると思われる今回のテストで、1つだけハッキリしていたのは、やはりジオラインの圧倒的な速乾性能でしょう。それなりに保温性能も高めたウエイトの素材でこの結果、やはりアウトドア用肌着の面目躍如といったところ。そして、当然ですがアウトドアメーカーの製品にはより高機能・高価格のインナーが多数存在します。入手しやすさ、コスパの高さから、私がジオラインを選んでいるだけです。
そして肝心のヒートテックですが、今回のテストの肝である新旧のヒートテックで目に見えた違いが出せなかったことで、ジオラインの性能ばかりが目立ってしまう、やや微妙なテストとなってしまいました(苦笑)
ただし、ジオラインには及ばないものの、メリノウール下着とは同等の時間で乾燥。もちろん化繊とメリノウールでは同じ保水状態でも、保温効果や汗冷えしやすさが異なるのですが、アウトドア用に売られている肌着と同程度の速乾性があったことも事実。実は、後述する私が日頃登山で使っている(下着用途ではない)メリノウールのシャツよりは遙かに乾きが早かったです。
もちろん「すなわち登山使用OK?」とはたったこれだけのテストからは言えません。
しかし、それこそ南谷氏のようにドライレイヤーとの併用、または吸水性の高いミッドレイヤーなどを併せることで、安価な防寒&速乾インナーとして1つの選択肢になってもいいようにも感じました(とはいえ、そのレベルのウェアを選択する人は、普通あえてヒートテックは選ばないのですけどね(笑))。
発汗量には個人差もあり、ベースレイヤーのみで解決しない人も多いと思います。私の場合はドライレイヤーの存在が大きいですし、ベースレイヤーにしてもメリノウールがベストという人もいれば、汗乾きを重視した化繊を選ぶ人もいるでしょう。
そしてまだその判断ができないレベルのうちは… とりあえずジオラインあたりから試してみると間違いないのかなと(笑) 無難すぎる結論ですけども。
おまけ:ユニクロ製「ファインメリノウール」もテストしてみた
今回のテストに併せて、以前から気になっていたユニクロの「ファインメリノウール」(前「スーパーファインメリノウール」→現「エクストラファインメリノ」)の乾燥テストも行ってみました。格安メリノウール素材としてお馴染みのユニクロ/ファインメリノですが「これをアウトドア用メリノ的に使えないものか?」なんて考えたことのある人は、結構いるのではないでしょうか?
メリノウール自体は速乾性のある素材ではありませんが(濡れても汗冷えしにくいのが天然素材であるウールの特徴)、濡れたら早く乾いてくれるにこしたことはありません。
比較相手は私が秋冬の登山で使っている、モンベルのスーパーメリノウール製長袖シャツ。普段はこれをファイントラックのスキンメッシュシャツの上に着て、ベースレイヤー兼ミッドレイヤー的な使い方をしているものです(以前はこの間にジオラインを挟んでいましたが、行動中は熱すぎたので今は外しています)。
まずは、保水状態から乾燥の重量変化を表にしたものです。モンベルメリノウール、意外に水を吸って重たくなっていますね。
そして、含水率の変化グラフはこちら…。おっと、ユニクロ/ファインメリノウールの方が、保水や乾燥についてはいい雰囲気の結果が出てしまいました(笑) しかし、最後まで見るとより多く保水した割に完全に乾くまでの時間が同じという見方もできる訳で、何を持ってどちらが上と判断するかもこのテストだけからは判断ができません。
確かにモンベルのメリノウールシャツは汗乾きはあまりよくなく、普段の山行でも汗をかくと裾の方に水分が溜まってしまう印象でした。それでもメリノウールという素材の特性もあり、汗冷えすることはあまりないのですが、それもファイントラックのスキンメッシュに助けられてる部分は大きい気がしていました。
そしてこの結果を見たからといって、ファインメリノウールを登山に使えるか?と言われると考えてしまいますが(肌直で着るとチクチクしそうですし)、ひとつの選択肢として面白そうな存在ではありそうです。
あとはやはり私は発汗が(妻などに比べて)多いこともあり、通常のメリノウールでは保水や乾燥が追いついてないと感じることもありますし、最近流行のメリノウールと化繊のハイブリッド素材なども試してみると幸せになれるのかもしれません。
参考記事など
冒頭で紹介したヒートテックご意見番としてお馴染みのブログより。2年前に既に同様の速乾テストを「ヒートテック極暖」を用いてを行っていたようです。南谷氏のヒートテック+ドライナミックメッシュ着用についても、記事にされています。
ヒートテック極暖の速乾性は「綿以下」という実験結果 | IT技術者ロードバイク
ヒートテックでエベレスト登頂 実はドライナミックも下に着ていた | IT技術者ロードバイク
アウトドアギアジンのベースレイヤー&ドライレイヤー記事。どれも情報量タップリですが、今回の記事的に注目なのはワークマンネタでしょうか(笑)
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当ブログのハイテク素材、ユニクロ関連記事も少々。ジオラインのような機能性インナーを普段着に使うのは快適ですが、洗濯には気を付けましょう、といった話も書いています。
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